過去
海のなか
潜っていた感覚でいた若いころ
何もかもが美しいサンゴ礁だった
サザエだってアワビだって伊勢エビだって
なんだって獲れた
水圧が薄くなる彼の歳では
なにもかもが握れなくなり
流れるだけとなった今
クラゲの差し出す手に何かを受け取ろうとする
さんざめく太陽は過去になり
とてもここちいい
心はすっかり浜辺に打ちあがってしまった
それからというもの
ヤドカリの宿を借りながら
ずっとここまできたんだ
重くなった運命を身にまといながら
by tanimi